悲しみの理由

今回の日記のテーマは、今回の訃報の悲しみ、無念、…の意味を要約したい。

なるべく簡潔にしたいので、本当は第三者のような仲間が多数いるのだが、登場人物は当事者の喪主で夫のA(敬称略)、そして故人で妻のB。そして私(正確には我々仲間・家族付き合いの皆の全て)とする。

Aと私は大学で学部は異なるが同じ学年であり同じサークル(サイクリング同好会)であった。

彼は、こと我々共通の活動の範囲においては、格段に優れた体力、実行力、キャリアを持ち、大学からようやく本格的に取り組み始めた我々とは全く次元が違っていた。そして、その考え方は、解り易く言えば植村直己そのものであり、実際、無伴走単独タイムトライアルに関しては、記録づくめである。それらは現代の世であるので、名前さえ知っていればWebで検索したらすぐに見える部分でもある。そのような彼であるから、人物はいかに温厚でナチュラルであっても部分的にはストイックで、クリティカルで、シリアスである。それは当然であり、仕方のないところであり、私などのように無能でありながら、無用にとがった性格の人間と比べれば、いい意味でごく普通で常識的で大人で、実際に彼の社会的地位は明らかに高い部類に属する。

そのような彼ゆえ、しかも見た目も男前でしかもがっしりした格闘家のような体格もあいまって、一年次に彼をたちまち好きになった同学年の女子が存在した。しかも、それが今でいう肉食系であった。そして悪いことに大抵の周りの目から見て痛い女子であったので、我々周囲も少なからず心配し、困惑していた。

そんなこんなで我々2回生になったとき、下級生が入部してきた。その中にBもいた。その性格ゆえ、皆にかわいがられ、いい意味で部内でアイドル的存在であり、皆、それぞれに好感を持っていたと確信している。

そして、とてもラッキーなことにAとBはいい仲になり、痛い同学年女子は去った。我々は仲むつまじいAとBをちょっとうらやましくも、それ以上に「よかったなあ」と影で胸を撫で下ろした。

時は流れ、A25歳B24歳でめでたくゴールインした。我々も、それ以前から心中では「これでAとも生涯いい関係で交友関係・知人関係・同窓関係が保てそうだな」と心底喜んだものだった。事実、居住地のことや自身を置く社会環境のこともあり、卒業後に最も密な関係性を持てたのはA一家とであった。これはAの妻がBであり、部外者でなかったことは要因とし大きなことであった。

それはAのカミさんが単に気立てのいい奥さんであるという単純なものでもなく、もちろん、部のマスコット的アイドルであった、かわいい奥さんの顔もこれでずっと先まで時折見ながら歳が取れるとも思ったのも事実だが、もっと大事なことがあった。

それは、前述のストイックでシリアスでクリティカルなAと我々との間にBがいてくれるということは、少なくとも我々がAについて、どれくらい元々畏敬の念を持っているのかとか…もっと単純に言えば尊敬して恐れているのか、など、Bがいい通訳であってくれる存在であったからである。そんなことは、たとえ家族ぐるみのつきあいをしていた我が家で私の妻でさえも気づかないポイントであったろうと思っている。

そういう意味で、本当に欠くべからざる存在であった。

人は時が来たら何らかの原因で死ぬ。これは事実だが、
そんな理由を唱えてもなんのなぐさめにもならない。享年52歳。

しかし、瞼に浮かぶ面影は、18歳の初々しいあの頃の姿である。
我々にとっての感情的な悲しみは、その人を地上から失ったことだ。

しかし、それに加えて落胆しているのは、Aとのいいつきあい方の手段の一つを失ったことである。

かのビル・エヴァンスは当時のバンドのベーシスト、スコット・ラファロとは掴み合いのケンカをするような犬猿の仲だったという(レイ・ブラウンもそうらしいが、ベーシストというのはまともなのがいないらしいw)。しかし、ラファロが自動車事故により27歳の若さでこの世を去ったとき、エヴァンスは一月ほど泣き暮らしたらしい。確かに、ラファロが最高であったという論評が多いし、少なくとも私はそう確信している。ラファロ自身が傑出して優れていただけではなく、エヴァンスもラファロサポート時代が一番いい仕事が出来ていたのかも知れないとも思う。実際、ラファロ没後のアルバム(という説の)アンダー・カレントのアルバムを聴けばエヴァンスの落胆ぶりはわかろうというものだ。

Bはもちろんそんなとがった性格ではなく誰からも愛される本当にいい人であった。しかし、ふとそんなことまで思い出してしまった。


どうしても、なんとしても、
我々(永遠の悪ガキじいさん達)よりも長生きしてもらわなければ困る存在であった。

合掌

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写真日記『東京弔問他』
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