引用記事:ダンカン 第1話 〜差別区別! おおいにけっこう。人はそこから自分の居場所を見つける生き物〜

── お笑い界の重鎮、ビートたけしさんを師匠にもち、たけし軍団の中心核としてバブル全盛期にかけてお笑い界をリードしてきたダンカンさんに昨今のお笑い界についての現実をお伺いいたします。

ダンカン:「俺、口悪いけどいいかな? そうだね、お笑い界もそうだけど、今の日本の在り方って完全にゆがんでいますよね。言葉悪いけど、世の中ってある程度は狂っていないと国民全員が同じようなスタイルになってしまうよ。それって某国と同じような状態、まだ幸せかな。周り見てごらんなさいよ。みんな同じ格好している。今は夏が近いからカラフルなものや薄着だけど、冬になると街中が黒一色。まるでお通夜そのものだよね。これって世界から非難を受けているどこかの国のスタイルと重ならない?」

── 確かに日本人は流行ものが大好きですね。

ダンカン:「今の日本人は日和見ばっかり。W杯だってさ、よもやこんな結果になると誰が予想した? 勝てると思わなかったカメルーン戦。試合が始まる前なんて誰もが『勝てると思わない』『試合なんか興味ないよ』って、多くの人が言っていましたよね。でも試合に勝った瞬間、そいつらは『本田って凄げぇ』と賞賛し手の平を返す様に日本チームを応援し始める。俺は悪いんだけど、次の試合を負けてくれと思ったんですよ(苦笑)。きっとそいつらは絶対パタンと手の平を返すんだろうなって……。ま、W杯前の試合成績が悪かったから仕方はないけどね。岡田監督の批判もすごかった。今じゃ『非難してごめんなさい』っていう書き込みが多いだろう。本当、日和見国民だよな」

── 日本人がなりゆきを見つつ自分の有利な方に付こうとするのって昔からじゃありませんか?

ダンカン:「いや、そんなことひと昔まではなかったと思うんだよね。お笑い界もさ、芸人さんが『お妾さんをもった』とか『女と一緒に歩いていた』と言われることがあっても、周りの連中はみんな『旦那、甲斐性があるね』と思っていたんだから。きちんとその関係を認めていたわけ。でもさ、今のお笑い芸人が女の子に手をだそうもんなら、それこそ『どういうことなんだ。常識がないのか』って凄い勢いで叩かれるよ。でもさ、そもそも常識がないからお笑い芸人になるんであってね。猫も杓子もなんでも『おかしい』という日本社会っておかしいよ」

── ちょっとでも道に外れたことをするとすぐに非難しますね。

ダンカン:「ちょっと言いにくいんだけどさ。ヤクザと呼ばれる人たちがいるよね。彼らをけっしていい商売、仕事だとは言わないですよ。他人様に迷惑かけるんだからね。でも日本中のヤクザを厳しく押さえつけたことによって、今日本の現状がどうなっているか知ってる? 韓国だとか中国系マフィアとかいろんなのが世界中から日本に入って、変なトラブルが増え始めた。その結果、ヤクザもしのぎが削れなくなり、トラブルを解決するかわりにみかじめを取ったり、覚醒剤に手を出したりする。どんどん酷いことになるんだよ。相対的なことを言えば、社会には悪が必要なの。重要なのはそのバランス。だから、俺らがなにか世間様の意図にそぐわないことをしたとき『所詮お笑いは』と指さされてもいいの。こんな俺らには選挙権もいらないし、ぜひお笑い芸人のためにもそういう風にしてもらいたい」

── 悪もまた善なりということですね。

ダンカン:「差別はいけないと言いますよね。でも俺からしてみれば、差別はおおいに結構なんですよ。最近は差別を区別と言葉を置き換えている風潮がある。この前さ、うちの子供の小学校で運動会があって、見に行ったんですよ。昔、俺らの運動会って50mのかけっこを走ってちゃんと順位つけていた。そして、1位はノート、2位は鉛筆、3位は消しゴム、後は何ももらえないということがあたりまえだった。これ、ある意味差別です(笑)。でも俺らはその商品が欲しくてがんばったし、1位や2位の奴はたちまち学校でヒーローになるんだよね。今までモテなかった奴がいきなりモテ始める。それを見て『俺もモテたい。でも運動神経はないから音楽のたて笛ですげえうまくなって一番になってやろう』って歌謡曲まで吹けるようになる奴もでてくる。今度はそいつがクラスで一番の人気者になる。運動能力も音楽の才能もないガリ勉タイプはさ、勉強で勝つしかないと夏休みの宿題で昆虫の名前や生態などを覚えてみんなに披露する。すると、それを周りが凄いと褒め称える。こんなふうに、昔はそれぞれ自分の持ち場持ち場で目立っていたし、一番輝く場所があったはずなんだよな。今はそれがいっさいないでしょう。そこが問題なんじゃないかな。どんどん区別すればいいんですよ」

── 区別することが輝ける才能を開花させてきたんですね!

ダンカン:「人間なんて差別されたって区別されたって死にやしないよ。つまはじきにされたり、隅っこにやられても、そこで自分の得意分野を見つけて這い上っていく生き物なの。なのに『そんなことないよ。あなたは落ちこぼれではないよ』と声をかけて守ってあげようとする。そうすると『あ、そうなのか。このままでも平気なんだ』と、その子は思うわけ。本当は駄目だから、気をつかわれて端っこにやられているのに『このままでも大丈夫』と思ったまま大人になってしまい、そのまま世の中に出てしまう。そこで厳しい現実にドォオンとぶつかり壊れてしまうんだよ。世の中にうまく順応できなかったらそっぽむかれる。今まで『大丈夫』と言われていた子ほど社会から手の平返しの仕打ちをもろ受ける。その子にとったらさ、もっと早くはっきり言ってほしかったはずだよ。『あなたはビリです』『あなたは駄目だよ』って。そうしたら自分でなんとかしようと頑張れたはずなのに、そんなチャンスの芽も区別は駄目という大義名分で摘み取られちゃった。そんな子が世の中にいっぱいいるんだよ」

── 今の運動会は順位とかないのでしょうか?

ダンカン:「順位はあるんだけど、何も商品とかはもらえないんじゃないかな。ご褒美ないとさ、やる気でないでしょう? 確かみんなで手をつないでゴールするという奇妙なかけっこもあったよね」

── そういえば、男女差別が駄目ということで、「君」「ちゃん」と呼び方をやめて「さん」と呼びましょうということもありましたね。

ダンカン:「人間なんて差別から『なにくそ』という反骨精神で成り上がっていきますからね。これって本当に必要なんですよ。その『なにくそ』が無くなってきているもんだから、気がついたら日本は『教育』も『政治』、『経済』などいろんなもんが他国に負けてしまうんだよね」

── 日本人の負けん気がなくなりつつあるということなんですね。

ダンカン:「ま、でもしょうがないんだろうね。順繰りで、それぞれの国でオリンピックがあって万博があった国が発展していくという面では、かつての日本もそうだったですからね。それにしても今の日本人は弱いし元気ないよね。」

── 個性を大事にという現代の個性は真の個性じゃないということなんですね。最近、テレビのお笑い番組を見ていてもみんな同じように見えてしまいます。

ダンカン:「今の子は本当にかわいそうなんですよ。我々の時代も少しはかわいそうという時代に入っていたけれど、今よりはマシだったな。昔のお笑いの人って、番組をもったりすると、ポンと家一軒が建っていた。今はとてもじゃないけどそんなことがないよね。しかもどんどん新しいお笑いを出そうと芸人は使い捨て状態。ディレクターも、人気ある若手芸人も今だけだからという感じでしか思っていない。少しでも賞味期限が切れたら、ポイポイと使い捨てにしていく。作り手側としては仕方ない、そんな時代だから仕方ないかもしれない。けれど使われる側のお笑い芸人も『どうせ俺らは使い捨て』と自覚しちゃっているのが切ないよ。もちろん使い捨てじゃない芸人もいるけど、それはほんの一握り。そんな状態だから思い出作りとして芸をしているようなところがどこかある」

── 学芸会の延長みたいで、なんか空しいですね。

ダンカン:「本来のお笑い芸人ってそうじゃないんだよね。本当にお笑いが好きで芸人を目指すのであれば、生涯続けるものであって生業としてこれで食っていくというのがあるべき姿なんです。でもそれをさせない、そんなことができないような空気がテレビ業界や世の中に蔓延していることが俺らとしては寂しいね」

── テレビ業界がこのままの状態であるかぎり、昔のようなお笑い芸人はなかなか育ちにくいんでしょうね。

ダンカン:「お笑いに関していえばの話だけど、テレビ業界の自主規制が昔と比べてかなり厳しくなってるよね。昔、俺らが出演した番組はほとんどがめちゃくちゃで『バンジージャンプできるかクイズ』とか、今じゃとてもやっちゃいけない番組を思いっきりやっていた。お笑い界じゃないんだけれど、ミゼットプロレスというジャンルがあった。 頭でマットの上を滑ったりするコントプロレスで、どこか見せ物小屋に近いものがあったんだ。彼らは自分の体を見せ物として仕事していた。でもそんな人達を見に行くこと笑うことは差別だからとテレビで放映したらいけない、相手に失礼だから見てはいけないというような親切心の押し売りが強くなったんですよ。本人達にとったらよけいな御世話なのにさ。結局そのことで彼らの仕事はなくなり、生活できなくなってしまった。いいことをしているつもりが人の生活を壊しているんだよ。それは怖いことだよ。俺たちも間違ったとらえ方を視聴者がしないようにそういう部分はきちんと気をつけて番組を作るように心がけている」

── 風評被害そのものですね。

ダンカン:「後ね、人の危険察知能力も最近の人はもっていないんじゃないかな。俺たちは危険なシーンのある番組も火を使う場合は服に石綿を詰め、人体への延焼を防いでいたし、高い場所での収録は万が一落下しても怪我をしないように保護マットの用意はもちろん命綱をきちんと装着して安全に気をつけていたんですよ。派手に見える演出ほど、安全部分は一番重要だったんだ。でもそのことを一般の人は知らない。ただ、俺たちのパフォーマンスを観て、『自分にもできる』と真似してしまい、事故をおこしたりすることも多かったよね。そんな事故があるたび、テレビ局には苦情がきて、スポンサーにも迷惑がかかるようになってしまった。そんなことが何度も続いたもんだから、テレビ業界で危険な行為や過激な番組はやめましょうという流れになり、今の自主規制の厳しさになっちゃったんだよ。元々、お笑いの俺たちは売れるため、人様に笑っていただけるためなら体はどうなろうが知ったこっちゃない人種。『俺たちは面白いんだよ、笑えることやりますよ、出してください』という気持ちでいっぱいなんだよね。でも類似事故が増えたことで、なんでもやりますという芸はNGとなり、腹をかかえて笑える面白いことができなくなった。ここまでならOKという許可がおりている範囲中のお笑いなんて、絶対つまんないよ。こんな流れになったひとつは視聴者の危険察知能力の低下、認識不足も関係あると思うね」

── 思いっきり体を張ってる芸人さんはもう日本にはいないんですかね。

ダンカン:「そんなことないですよ。世界のエンターテイメント界で大人気の電撃ネットワークさんは今でも体をはったパフォーマンスをやってる。とにかく彼らの芸は単純でばかげているほどおかしくて危険。日本のテレビ業界も彼らの面白さを知っているんだけど、危険がつきものだからという理由で放映できない。勿体ないよ」

── おもしろいと分かっていながら見られないのってなんだか損している気分です。

ダンカン:「今のお笑いは作り手も芸人もお互いが予定調和という環境でやってるんだよ。人気お笑い番組のゲストに人気のある若いアイドルや好感度ある女性タレントが何人も雛壇に座って、芸人のネタが面白かったらボタンを押すというシステムになっている。でもこれはおかしなことなんだよな。もともとお笑いというのはそれなりに感覚が高く鋭くないと評価できないはず。でもデビューしたてのタレントが『あ、今のは面白かった』と笑って優劣を決めてるものなんだ。お笑い界自体が軽くみられている気分になるし、哀しいよ。ま、そんな時代だからしょうがないと芸人も不満はないんでしょうね。いやそれどころか不満をもつ感覚すらなくなってきているのかもしれないね」

── テレビの規制枠がどんどん厳しくなり自由表現をできる部分が少なくなったことも原因なのでしょうか。

ダンカン:「それは十分に考えられるね。ま。一番の原因はたけしさんがおもしろくてひどいことをやりすぎたということだと思うよ。あの人は本当におもしろいものを作りすぎた(笑)」

── まさに天才でした。

ダンカン:「僕とテリー伊藤さんが構成作家をした『元気がでるテレビ』なんて4つのコーナーがあったんだけど、今じゃそのひとつのコーナーで一本の番組になるような内容のものばかりでさ。そんなものをこれでもかって番組に詰めて、次々とパワーで押し切って作っていたんだよ。ま、当時はバブル全盛期だったから金はいくらでも使えたし。一度しか使わないのに何十メートルもある動く仏像を作ってすぐに壊してみたりね。贅沢だったよな。ひとつのおもしろい発想だけで番組がいくらでもできた。本当にやるべきことはとことんやったな。大げさだけどお笑いのネタの燃えかすさえ残らないくらい作っちゃった」

── お笑いの全てをやりつくしたということですか?

ダンカン:「そうだね。だから逆にそうなっちゃうと、今のお笑い界は原爆の落ちた広島と同じ状態なのかもね。何も残らず更地になってしまったという時代なのかもしれない。たけしさんのお笑い時代の後だと何をやろうがパクリといわれてしまう」

── それはある意味悲劇でもありますね。

ダンカン:「悲劇……。でも俺はそう思わないな。あの時代みたいにそんな過激なことをやらなくていいと思うんだよ。例えば、路地裏に咲く一輪の小さい花に気づいて『綺麗』と誰かが言って他の誰かがその花が綺麗だと気づいていくように、小さいなりの楽しさやおもしろいネタが生まれてきているんじゃないかなと思うんだよ。いったんお笑い界のおもしろさがゼロになったその後に、小さいお笑いの芽が生え始めているのが今じゃないのかな」

── 今は芽が同じように生えているから同じようにしか見えないのかもしれませんね。

ダンカン:「ただその芽がこれからどうなっていくかわからないけれどね。それらがこれから育って、昔のたけしさんのパワフルなお笑い時代を知らない人がいる世代になり、新芽がたけしさんのようなパワフル方向に成長していけば、それも新鮮に感じるのかもしれないね」

── すると今のお笑い芸人さんに必要なことは何だと思いますか?

ダンカン:「1にも2にもお笑いをやるしかない、ネタを続けることしかないんじゃない。そして芸人としての自由と差別をきちんと自分のなかに持つことができれば、個性あるおもしろい芸人になれるだろうし、未来のたけしさんになれるかもしれない(笑)。俺ね、おもしろくあるためには様々な経験したほうがいいと思うよ。破天荒さも必要だし、叩かれることも大事。俺たちお笑い芸人にはお笑いしか道がないという負けん気を持っておくべきだよ。とにかく何でも経験してみるというのも芸の肥やしを増やす一つの手だね。悪さもいたずらもほどほどにね」

聞き手・構成:金関 亜紀 協力:株式会社オフィス北野


PROFILEダンカン

1959年埼玉県生まれ。オフィス北野所属。お笑いタレント、たけし軍団の一員。放送作家としての活動も長く、サンケイスポーツ紙などへの執筆活動も長年続けている。阪神タイガースの全ての試合をスコアノートにつけるほどの熱烈ファン。類稀なキャラクターによりオフィス北野作品をはじめ俳優として重用され、主に犯罪者や変質者、服役囚、或いは労働者などの役でその存在感が光る。自身も監督として作品を制作。舞台でも『劇団サギまがい』で活躍中。


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